API連携障害事例:タイムアウトと外部依存の根本原因
システム開発において、外部のAPIと連携することは一般的です。自社サービスだけでは提供できない機能やデータを利用できるため、開発効率やサービスの付加価値を高める上で非常に有効な手段と言えます。しかし、外部APIへの依存は、システム障害のリスクも同時に高めることになります。本稿では、外部API連携に起因するシステム障害事例を取り上げ、その技術的および組織的な根本原因を分析し、再発防止のための具体的な対策について考察します。
障害事象の概要
あるWebサービスにおいて、ユーザーが特定のアクション(例: 外部サービスとの連携情報の取得)を行った際に、画面の応答が非常に遅延するか、あるいはエラーとなって機能が利用できなくなるという障害が発生しました。障害発生中、サービスの他の部分は正常に稼働していましたが、影響を受ける機能は断続的に利用不能な状態となりました。
技術的な根本原因の分析
この障害の調査を進めた結果、根本的な原因は外部APIへのリクエスト処理に問題があったことが判明しました。
- 外部APIのレスポンス遅延または無応答: 障害発生と同時刻に、連携していた外部API側で高負荷によるレスポンス遅延または一時的なサービス停止が発生していました。
- 不適切なタイムアウト設定: 自社サービスから外部APIを呼び出す際、コネクションタイムアウトやリードタイムアウトの設定が適切に行われていませんでした。あるいは、非常に長いタイムアウト時間が設定されていました。
- リソースの枯渇: 外部APIからの応答がない状態が続いた結果、外部APIへのリクエストを処理するためのスレッドやコネクションが解放されずに滞留しました。これにより、アプリケーションサーバーのスレッドプールや、データベース、キャッシュなど他のリソースが枯渇し始めました。結果として、システム全体、特に該当機能への新しいリクエストを受け付けられなくなり、レスポンス遅延やエラーが発生しました。
- サーキットブレーカーの不在または不備: 外部APIの障害が自社システムに連鎖するのを防ぐためのサーキットブレーカーパターンが導入されていませんでした。あるいは、導入されていても設定が適切でなかったため、外部APIがエラーを返している間も無制限にリトライを続け、さらに自社システムのリソースを圧迫していました。
これらの技術的な問題が複合的に作用し、外部APIの軽微な遅延が、自社サービスの機能停止という重大な障害に発展したのです。障害発生時のログを確認すると、外部APIへのリクエストに関するタイムアウトエラーや、スレッドプールの警告、コネクションプールの枯渇を示すエラーが多数記録されていました。また、メトリクスを確認すると、外部APIへのリクエストに関するレイテンシが異常に高騰し、同時にサーバーのCPU使用率やメモリ使用率が急増していました。
組織的な根本原因の分析
技術的な問題の背景には、いくつかの組織的な課題が存在していました。
- 外部依存に関するリスク評価と管理の不足: 外部APIへの依存がシステムの可用性に与える影響について、開発初期段階でのリスク評価が不十分でした。外部サービスのSLA(サービス品質保証)や過去の障害実績などを考慮せず、安易に依存する設計になっていました。
- 連携部分のテスト不足: 外部API連携機能の実装において、外部API側が遅延・無応答・エラーを返した場合の挙動を想定したテストシナリオが不十分でした。開発環境やステージング環境では正常に連携できていたため、本番環境でのリスクを見落としていました。
- 外部サービス監視体制の不備: 依存している外部サービスの稼働状況を能動的に監視する体制が構築されていませんでした。自社システムの監視は行っていましたが、外部要因に起因する問題の早期検知ができませんでした。
- 障害発生時のコミュニケーション不足: 外部API側の障害情報を早期に入手するための連携体制がありませんでした。また、自社システムで障害が発生した際に、どの外部サービスに依存しているか、どの部分が影響を受けているかを迅速に特定し、関係者に共有するプロセスがスムーズではありませんでした。
これらの組織的な課題が、技術的な脆弱性を見逃し、障害発生時の対応を遅らせる要因となりました。
再発防止策
本事例から得られた学びに基づき、再発防止のために以下の技術的・組織的な対策を実施しました。
技術的な対策
- 適切なタイムアウト設定の徹底: 外部API呼び出しにおけるコネクションタイムアウトとリードタイムアウトを、機能の要件と外部APIの特性に合わせて適切に見直しました。必要以上に長く設定せず、問題発生時にリソースが長時間拘束されることを防ぎます。
- サーキットブレーカーパターンの導入: 外部API呼び出し部分にサーキットブレーカーを導入しました。これにより、外部APIが一定回数以上エラーを返した場合、一時的にそのAPIへのリクエストを遮断し、自社システムへの影響を最小限に抑えます。サーキットブレーカーの状態(Closed, Open, Half-Open)に応じた適切なフォールバック処理(キャッシュデータの返却、デフォルト値の利用、エラーメッセージ表示など)を実装しました。
- リトライ戦略の見直し: 必要に応じてリトライ処理を実装する場合でも、Exponential Backoffのようなアルゴリズムを用いて、短時間に過剰なリトライが発生しないように調整しました。無制限のリトライは厳禁です。
- コネクションプール/スレッドプールの監視強化: 外部連携に使用されるコネクションプールやスレッドプールの状態(アクティブ数、待機数など)を詳細に監視し、閾値を超えた場合にアラートが発報されるように設定しました。
- 外部サービス監視の強化: 依存している外部APIに対して、死活監視や簡単な疎通確認を行う仕組みを導入しました。また、可能であれば外部API提供元からの稼働状況に関する通知を受け取るように設定しました。
組織的な対策
- 外部依存リスクの評価プロセス確立: 新規に外部サービスと連携する場合、その可用性、性能、セキュリティなどのリスクを評価するプロセスを設けました。リスクが高いと判断される場合は、代替手段の検討や、影響を限定するための設計上の考慮(非同期化、機能の分離など)を行います。
- 連携部分のテストケース拡充: 外部APIが正常に応答しないケース(タイムアウト、エラー、遅延など)を網羅したテストシナリオを作成し、CI/CDパイプラインに組み込みました。
- 依存サービスリストの作成と共有: システムが依存する外部サービスの一覧(依存度、連絡先、SLAなどを含む)を作成し、開発チームや運用チーム間で共有します。定期的にリストの内容を見直し、最新の状態に保ちます。
- 障害発生時のコミュニケーションフロー整備: 外部サービスに起因する障害発生時、関係者(開発チーム、運用チーム、ビジネスサイド、必要であれば外部API提供元)が迅速に情報共有し、連携して対応するためのコミュニケーションフローを定めました。
- Postmortem文化の浸透: 障害発生後には必ずPostmortem(事後検証)を実施し、技術的・組織的な根本原因を深く分析し、具体的な再発防止策を特定するプロセスを定着させました。
まとめ
外部API連携に起因するシステム障害は、技術的な実装ミスだけでなく、外部依存に対するリスク管理、テストプロセス、監視体制、チーム間のコミュニケーションといった組織的な課題が複雑に絡み合って発生することが多いです。
本事例を通して、若手開発エンジニアの皆様には、単に機能を実装するだけでなく、それが依存する外部要素によって発生しうるリスクを想定することの重要性を認識していただければ幸いです。障害発生時には、エラーログやメトリクスを詳細に確認し、問題が発生している箇所(自社システム内部か、外部連携か、特定のコンポーネントか)を切り分ける練習を積むことが、技術的な根本原因を探る第一歩となります。
また、技術的な対策(タイムアウト、サーキットブレーカーなど)は、コードを書く開発者自身が実装できる強力な再発防止策です。これらのパターンを理解し、適切に適用することで、よりレジリエント(回復力の高い)なシステムを構築することができます。そして、組織的な側面として、チーム内外での情報共有や、依存関係の明確化といった活動にも積極的に関わることで、障害に強い開発・運用体制の構築に貢献できるでしょう。
システム障害は避けられないものですが、その発生から学びを得て、原因を深く掘り下げ、組織全体で対策を講じることで、サービスの信頼性を向上させることができます。本稿が、皆様の障害対応スキル向上の一助となれば幸いです。